2017年10月05日の記事 (1/1)

体内時計

凡語 10/5

<時差ボケも狂わぬ妻の腹時計>とは言い得て妙か。日本人の3年連続受賞はなかったが、ノーベル医学生理学賞決定に家族旅行川柳の秀作を思い浮かべた。

受賞するジェフリー・ホール博士ら米国人3人は、1984年にハエを使った実験で生物の体内時計を制御する遺伝子を発見した。時計遺伝子が多くの生物で見つかり、人にも同じ遺伝子があることを日本の研究者が突き止めた。

その後、体温や血圧、糖の代謝といった生理機能をつかさどる時計遺伝子の働きが次々と解き明かされてきた。海外旅行時の時差ぼけや交代制勤務で起きる睡眠障害は体内時計の誤作動と言え、食事の取り方で針の進み具合が変わる「腹時計」もその一種とか。

宵っ張りの朝寝坊も遺伝的に決められているそうだ。人の体内時計の1日は24時間よりやや長く、遺伝的に24時間に近い人は朝型、少し長めなら夜型になりやすいことが分かってきた。

朝に目が覚め、夜に眠くなる24時間周期の生活リズムは、夜更かしに加えて、暴飲暴食や運動不足でも乱れやすい。時計が狂うと、生活習慣病や精神疾患などを誘発する。

体内時計は毎朝、光を浴びるとリセットされ、正しいリズムを刻み直す。しかし、太陽の動きに逆らう「24時間社会」は体内時計にとって受難の時代に違いない。



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正平調 10/5

春は曙(あけぼの)…で始まる清少納言の随筆、枕草子によれば、「秋は夕暮(ゆうぐれ)」に趣がある。加えていうには「日入(いり)はてて、風の音むしの音などいとあはれなり」

日が没してから聞こえる風の音、虫の音。きのうは中秋の名月だったが、空気の澄んだこの季節は耳にするものまでが美しいと、平安の文化人は言いたかったのだろう。もしかして宇宙の音もそうかもしれない。

今年のノーベル物理学賞に宇宙からの重力波を世界で初めて観測した米国などの研究チームが輝いた。とらえた波音をテレビで聞かれた人もいるだろう。「ボッ」なのか「フヨッ」なのか、不思議な響きである。

空間と時間は伸びたり縮んだりして、時にゆがみができる。それが波紋のように広がるのが重力波だそうだ。天才アインシュタインが存在を予言し、ちょうど100年後の昨年に発表されたことが話題となった。

前日の医学生理学賞では、体内時計の研究に光があてられている。人の体は地球の自転に合わせ、24時間周期のリズムをうつ。夜にまぶたが重たくなるのは、細胞レベルで時計遺伝子が働いているからだという。

はてしない宇宙から届いたさざ波の調べ。小さな細胞が休まずに刻む時計のリズム。神秘の鼓動にしばし、耳を澄ませてみたい秋の夜である。

銃規制

南風録 10/5

 アメリカにはボナンザへの信仰があるという。「豊かな鉱脈」「思いがけない幸運」といった意味だ。19世紀半ばのゴールドラッシュに沸いた南西部に根強く残る。

 家柄や教養に関係なく、チャンスはその気のある者に突然訪れる。ある意味、平等で民主的と言えなくもない。「不思議の国アメリカ」(松尾弌之=かずゆき=、講談社現代新書)に詳しい。砂漠に囲まれた欲望の街・ラスベガスには今なおボナンザ信仰が息づく。

 現代の鉱脈を掘り当てようとカジノで遊び、富を得た人がショーを楽しむ。そんな街の音楽祭を、時ならぬ乾いた連射音が切り裂いた。ホテルの32階から銃を乱射するという凶行である。

 容疑者の男は部屋に20丁以上の銃と大量の銃弾を持ち込んでいた。温和な資産家との周囲の評判は、米国史上最悪の惨劇に結びつきそうにない。それだけに銃社会の病巣の根深さが際立つ。

 悲劇が何度繰り返されても、銃規制の機運は盛り上がらない。逆に護身のため銃が売れるとの思惑から、今回も銃器メーカーの株価が上がった。トランプ大統領は遺族に哀悼の意を示しつつ、「議論はそのうち」と素っ気ない。

 銃の力で自らの身を守り、自由を勝ち取ってきた歴史は、この国の文化の礎でもあろう。銃への思いの強さは信仰に近い。だがそろそろ、犠牲者を悼む多くの涙を、銃の規制へと踏み出す力に変えるときではなかろうか。

7連覇を逃した王者

水や空 10/5

 視界がぐるぐると旋回する空中で「自分がどこにいるか見える」と語っていた。6年前の世界選手権では、回転のあまりの鋭さに、国際審判員2人が回転数を見誤るという珍事が起きた。床運動の一つ取っても、内村航平選手(28)の残す逸話は数知れない。

その体操ニッポンのエースが世界選手権の予選で途中棄権し、個人総合で7連覇を逃した。2種目めの跳馬の着地で左足首を痛めた時の、あの苦痛にゆがむ顔を見て、思わず同じ顔になった人もいたに違いない。

ロンドン、リオ五輪の2連覇も合わせ、8年連続で世界一の座にあった。その時々の輝かしい顔は言うに及ばず、連勝記録「40」のストップを告げるかのような苦しげな顔もまた、長いキャリアに刻まれるだろう。

跳躍を「高さより技術、ひねりでやっている」と言い「もう少し高さがあれば」と悔やんだ。長らく世界の最高峰である人の、高さが足りないと嘆く姿が皮肉に思える。

負担の大きい個人総合を続けるのかどうか。おそらく「孤高」という高みに達した人である。こちらは裾野にいて想像するばかりだが、これまでも、これからも「自分はどこにいるか」と問い続けることだろう。

「けがを治して、はい上がってやる」と誓ったという。美しく旋回しながら見る前途の、再び開けることを。

本末転倒

小社会 10/5

 「物理学は基礎科学の一つであるからその応用の広いのは怪しむに足らぬ」。県出身の物理学者・寺田寅彦が書いている。「例えば台所の物理学の応用でも、一々(いちいち)列挙すれば一冊の書物ができよう」(「物理学の応用について」)。

 基礎がしっかりしていればこそ、応用が利き、実用化への道も広がる。学問に限ったことではない。家を建てるにも、頑丈な基礎が大切なことは誰もが知っている。

 ノーベル賞ウイークはきのうの化学賞で、医学生理学、物理学を合わせた自然科学3賞が決まった。残念ながら日本人受賞者は出なかった。21世紀以降、日本人の受賞が急増している3賞だが、多くが20年以上前の研究成果に贈られている。

 ノーベル賞は基礎研究の大切さに、改めて光を当ててきたともいえる。基礎研究は一般的に時間と労力、費用がかかる。観察や実験をコツコツと重ねる地味な仕事でもある。その上に立って、革新的な技術や製品開発を目指す応用研究が進められる。

 そう考えると、日本の研究の現状に危機感を抱く科学者が多いというのもうなずける。政府は国立大への研究費を絞り、その上、すぐに結果や利益に直結する応用研究に重点を置く傾向にある。基礎研究が痩せ細れば、本末転倒だ。

 世界の進歩に後れないためには、基礎的科学の研究を重んじ、これを応用する場合はあまりに急な成功を期待しないこと--。寅彦随筆の結びである。

中秋の名月

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中秋の名月は満月とは限らない

今年の中秋の名月は10月4日です。

「中秋の名月」とは、太陰太陽暦(注)の8月15日の夜の月のことをいいます。
中秋の名月は、農業の行事と結びつき、「芋名月」と呼ばれることもあります。中秋の名月をめでる習慣は、平安時代に中国から伝わったと言われています。また、太陰太陽暦の9月13日の夜を「十三夜」と呼び、日本ではその夜にもお月見をする習慣があります。十三夜は、「後(のち)の月」「豆名月」「栗名月」とも呼ばれます。今年の十三夜は、11月1日です。

「中秋の名月には美しい月が見られる。そして、その月は満月である。」と思われている方は少なくないと思います。しかし今年は、10月4日が中秋の名月、その翌々日の10月6日が満月と、中秋の名月と満月の日付が2日ずれています。実は、中秋の名月と満月の日付がずれることは、しばしば起こります。では、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

太陰太陽暦では、新月(朔)の瞬間を含む日が「1日」となります。中秋の名月は、太陰太陽暦の8月15日の夜に見える月のことを指します。上の図のように、今回は新月の瞬間を含む9月20日が太陰太陽暦の8月1日、それから15日目の10月4日が太陰太陽暦の8月15日となります。

一方、天文学的な意味での満月(望)は、太陽、地球、月の位置関係によって決まります。満月とは、地球から見て月と太陽が反対方向になった瞬間(月が太陽の光を真正面から受けて、地球からまん丸に見える瞬間)の月のことを指します。上の図のように、今回は10月6日3時40分に満月の瞬間を迎えます。

月は地球のまわりを公転しながら、およそ29.5日の周期で満ち欠けを繰り返しています。しかし月は、この周期の半分の14.75日で必ず満月になるわけではありません。これは、月の公転軌道が完全な円形ではなく、少しつぶれた楕円形をしているためです。月が地球に近い位置にあるときには公転のスピードが速く、反対に、月が地球から遠い位置にあるときには公転のスピードが遅くなります。このため、新月から満月までにかかる日数は13.9日から15.6日と大きく変化します。今回は、新月から満月まで15.5日ほどかかっています。

このような理由により、中秋の名月と満月の日付がずれることが起こります。しかし、満月前後の月はとても明るく見ごたえがあります。今年の中秋の名月も、満月と遜色のない美しい月を楽しむことができるでしょう。


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ヘドノメーター

中日春秋 10/5

「ヘドノメーター」は、米国の科学者が考案した「幸福計」だ。ツイッターで使われる言葉を日々百万単位で分析することで、社会全体の幸福感の推移を測る試みである。

「幸せ」「笑い」や「おめでとう」といった言葉が多く使われれば幸福計は上がり、「自殺」や「殺人」「テロ」といった言葉が多用されればぐっと下がる。

これまで九年間の調査で幸福計が急上昇した日は、クリスマスや父の日、母の日。逆に記録的に低かったのは、歌手マイケル・ジャクソンが死んだ日や銃の乱射事件が起きた日だったという。

そんな「ヘドノメーター」が今週の月曜、過去最低を記録した。前日夜にラスベガスで起きた銃乱射で五十八人が殺されて五百人以上が負傷し、犯人は自殺した。幸福計の針は大きく下に振れたのに、上がったものもある。銃器をつくる会社の株価だ。

これまでも銃乱射事件が起きて規制強化を求める声が高まるたび、銃器メーカーは株高を享受してきた。規制が強まる前に銃を買おうという人が増えるからだ。そんな業界の政界工作もあって銃規制は進まず、また事件が起きる。その繰り返しだ。

ちなみに、銃規制強化に反対の立場を取るトランプ大統領が当選した日も、「ヘドノメーター」は記録的な低さだったという。幸福計と、銃器メーカーの株価。かの国の政治にとって、大切なのは、どちらだろう。