2017年09月24日の記事 (1/1)

定年後

凡語 9/24

47歳で転機が訪れた。京都大を出て大手生命保険会社に勤めていた楠木新(くすのきあらた)さんは会社生活に行き詰まり体調を崩して休職する。

仕事に行かなくなって<自分がいかに会社にぶら下がっていたか>に気付く。時を同じくして会社勤めがなくなる定年後の生き方に思いを巡らすようになった。

復職後は念願だった執筆活動との二足のわらじをはいた。定年退職を経た63歳の今は「こころの定年/評論家」を名乗って著作や講演の日々を送る。

楠木さんが4月に出した『定年後』(中公新書)が22万部と売れている。脚光を浴びるのは、寿命が延びて誰もが定年後を過ごす時間が増えたからだ。60歳の定年から死ぬまでに自由になる時間は就職から定年までの総労働時間より長い、と書く。そして60歳から比較的元気な74歳までを<黄金の15年>と位置付けて<人生は後半戦が勝負>と説く。

数年前に著者の講演を聞いた。定年を迎える前から助走期間を設け、仕事以外の余芸を持つと良い、と教わったのを思い出す。同書でも触れられている。

定年後の最終的なゴールは、やりたいことに取り組んで「いい顔」で過ごすことだと楠木さんは言い切る。本の帯の写真を見ると本人も実にいい表情をしている。この表情こそが何より自著の説得力を裏打ちしているのだろう。

カッコイイ

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中日春秋 9/24

「カワイイ」の語源とされる「かわゆし」が文献に登場するのは十二世紀に編さんされた、「今昔物語集」で「コノ児(ちご)ニ刀ヲ突キ立テ、矢ヲ射立テ殺サムハ、ナホカハユシ」という部分だそうだ。日曜のコラムの引用にはふさわしくない残酷な場面がどうして「かわゆし」であり、今日の「カワイイ」につながるのか。

当時の「かわゆし」の意味は「痛ましくて見ていられない」とか「気の毒だ」。なるほど、それなら「児ニ刀ヲ突キ立テ」は「かわゆし」である。そこからやがて同情や憐憫(れんびん)の情を催させるものという意味が強まって愛らしいことを意味する現在の「カワイイ」に変化していったそうだ。

その女性アーティストを表現するのにふさわしいのは「カワイイ」よりも「カッコイイ」の方である。一年後の引退を突然表明した歌手の安室奈美恵さんである。

CDと映像作品のトータルセールスは三千七百万枚という。商業的な成功以上に日本歌謡史に残るのは安室さんが築き上げた新しい女性歌手像の方だろう。

かつての女性アイドルに比較し、愛くるしい笑顔も甘えた歌い方もない。人々を魅了したのは説得力のある歌声と切れ味のあるダンスである。

「カワイイ」という言葉のDNAにかよわいもの、守ってあげたくなるものというニュアンスが潜んでいるとしたら、媚(こ)びぬ芸の力強い女性に「カワイイ」は使えまい。


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金口木舌 9/24

 かつて沖縄では「大臣誕生が先か、甲子園の優勝が先か」と言われた時代があった。学業もスポーツも本土に対する劣等感が背景にあった。県選出の大臣は1993年に上原康助氏が、甲子園優勝は99年センバツで沖縄尚学高校が達成した。

同じ90年代半ば、安室奈美恵さんが日本レコード大賞を2年連続受賞し、紅白歌合戦には9年連続出場した。小麦色の肌に、茶髪のロングヘア、ミニスカートに厚底ブーツ。安室さんのファッションをまねた若者「アムラー」が街にあふれた。

その社会現象は「大臣就任か甲子園優勝か」といった論争を超越し、新たな時代の到来だった。カリスマの誕生は、ウチナーンチュの本土に対する劣等感を取り除き、自信と誇りと希望を与えた。

70年代にも南沙織さんやフィンガー5など、全国を席巻した県出身アイドルはいた。「南国」「米国文化」といった沖縄の香りを感じさせつつ、南さんは結婚を機に引退し、フィンガー5は約5年で解散した。

沖縄特有の名字「安室」で全国に打って出て、そのルーツ以上に高い歌唱力とキレのあるダンスが注目を集めた。アジアでも絶大な人気を得て、4半世紀にわたり比類なき輝きを放つ。

来年9月の引退を表明した安室さん。この先、県出身初のノーベル賞受賞者でも誕生しない限り、安室さんを超える人は現れないのではと感じている。

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