2017年08月03日の記事 (1/1)

閑さや岩にしみ入るの声

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天鐘 8/3

 子どもの頃、低い木に止まって鳴くセミを見つければ、手づかみにしたものである。高い木の場合は注意が必要。捕り逃がせば、セミの〝放尿〟の直撃を受けることもある。

セミが鳴きだすと、夏本番という気がしてくる。数年間も地中で暮らして羽化するのだから、鳴き声にも勢いを感じてしまう。

羽化する際の体は白っぽく、しっかり草木にしがみつき羽をゆっくり伸ばしていく。ここで触れれば、羽が変形し正常な羽化ができなくなる。繊細という言葉を形にしたような羽。徐々に樹皮の色などに変わる。

松尾芭蕉が山形市の立石寺で詠んだ有名な〈閑さ(  しづか  )や岩にしみ入(いる)?(せみ)の声〉の一句がある。1926年、セミはアブラゼミと主張したのが歌人の斎藤茂吉だった。反論側は時期的にニイニイゼミと双方譲らなかった。

「あれはやはりニイニイゼミでしょうね。おやじがアブラゼミと言うのはちょっと見当外れだと思う」と回顧するのは、次男で作家の北杜夫(『この父にして』講談社文庫)。地元の人たちにセミの標本を採集してもらった結果、大部分がニイニイゼミ。

身近なセミだが、芭蕉の句にあるだけで論争になるから面白い。軍配は反論した側に。負けず嫌いの茂吉は珍しく自説を取り下げた。文学論争は、セミ捕りに興じる子どもの熱心さ以上かもしれない。セミはわれ関せず―と、梅雨明けに勢いを得て、今年の夏もにぎにぎしい。

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レコード復活

雷鳴抄 8/3

 息を止め、レコードの溝に針を落とす。曲が鳴り出すまでのわくわく感を忘れられない。今やデジタルオーディオに主役の座を追われたアナログ機器が、復活の兆しをみせているという。

昭和の時代から若者の音楽文化をけん引してきたソニーが、レコードの自社生産を約30年ぶりに再開すると、先ごろの小紙が報じた。昨年のレコード国内生産量は、5年前に比べ4倍に増加。若い世代にも人気が広がっていることが背景にある。

宇都宮市江野町のレコード店「スノーキーレコード」オーナーの竹沢政明(たけざわまさあき)さんは、「かつてレコードを聴いていた人が買い直すというケースも多い」と解説する。その魅力はデジタルの音楽にはない、音の深みや豊かさ、という。

かつてのブームが復活するという例は、ファッションや食品などの業界でもよくみられる。当時を知っている人は懐かしさや癒やしを感じ、若者たちは新たな感動を覚える。

政治の世界でも、かつての“流行語”が息を吹き返したのには驚いた。衆参両院予算委員会の閉会中審査で繰り返された「記憶にない」という答弁。1970年代のロッキード事件に絡む予算委でもおなじみのフレーズだった。

「木綿のハンカチーフ」「北の宿から」を聞きながら胸をときめかせた40年前。そんな思い出とは対局にある、負の歴史である。





オノマトペ

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内容説明
スクスクとクスクスはどうして意味が違うの?オノマトペにも方言があるの?外国語にもオノマトペはあるの?モフモフはどうやって生まれたの?日本語を豊かにしている擬音語や擬態語。8つの素朴な疑問に答えながら、言語学、心理学、認知科学など、さまざまな観点から、オノマトペの魅力と謎に迫ります。

目次
序 日本語にはオノマトペが欠かせない
1 「スクスク」と「クスクス」はどうして意味が違うの?
2 オノマトペの意味は変化するの?
3 オノマトペにも方言があるの?
4 外国語にもオノマトペはあるの?
5 外国人は日本語のオノマトペを使えるの?
6 オノマトペはことばの発達に役にたつの?
7 どうして赤ちゃん言葉とオノマトペは似ているの?
8 「モフモフ」はどうやって生まれたの?

著者紹介
窪薗晴夫[クボゾノハルオ]
鹿児島県薩摩川内市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)英語学科卒業。名古屋大学大学院文学研究科博士前期課程、イギリス・エジンバラ大学大学院博士課程修了(言語学Ph.D.)。南山大学助教授、大阪外国語大学助教授、神戸大学人文学研究科教授を経て、2010年より国立国語研究所教授

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中日春秋 8/3

日本語は、擬態語がまことに豊かな言語だ。歩調を表すオノマトペを見ても、トコトコ、パタパタにスタスタ、ヨロヨロ…と、たいがいの歩き方を表現できる。

海外のオノマトペに目を転じれば、バスク語で「ティピタパ」は日本語のトコトコで、西アフリカのヨルバ語の「キティキティ」はパタパタ。何となく分かる気がするが、では、オーストラリアの先住民が使う言葉で「ウールウールウール」は?

語感はウロウロに似ている気もするが、これがまったく違う。「動揺して水から走り出る様」を表す擬態語。何しろ川にはワニが、海にはサメの危険が潜む土地柄だ。必要が母となって生まれた擬態語なのだろう。

さて、森友学園をめぐる疑惑を表すのにぴったりなのは、どんな擬態語だろう。厳格なはずの財務省が、学園への国有地売却では、驚くほどゆるゆるの対応をし、交渉の記録はこそこそと消された。何とも、どろどろとしたものを感じさせる一件だ。

ついに検察が強制捜査に乗り出したが、名古屋大学の秋田喜美(きみ)准教授らによる『オノマトペの謎』(岩波書店)で、この疑惑の核心を、ずばりと言い表す擬態語を見つけた。西アフリカの一部で使われるハウサ語の「チュクーチュクー」である。

意味は「不正な方法で手に入れようとする様子」。そんな擬態語が日常的に必要となる世は、こりごり、うんざり…だ。