2017年05月19日の記事 (1/1)

切り取り犯

卓上四季 5/19

19世紀後半、英国ロンドンで5人の女性が次々に襲われる事件があった。のどを切られ、臓器をえぐられる―。残忍な手口は共通していた。

ジャックを名乗る犯行文が通信社に届き、「切り裂きジャック事件」と呼ばれた。容疑者には犯行の手口から医師や肉屋が浮上したが、犯人は捕まらず、迷宮入りした。

時代は大英帝国の絶頂期。海外で植民地支配が進む一方、国内では貧富の差が深刻になる。庶民は憂さ晴らしもあって、この事件に関心を寄せ、報道する新聞を先を争って購入した。今でいえば劇場型犯罪に当たる。

犯人は単なる変質者なのか。時代背景との関わりはないのか。今も真相を探る著作の出版が絶えない。節目の年には、特集番組や関連商品の販売もある。事件から130年たつ来年は、どうなるだろう。

国内に目を向けると、人をあやめたわけではないが、思い出という大切な心の財産をずたずたに切り裂くような出来事が相次ぐ。各地の図書館で所蔵の学校史や記念誌が切り取られる被害である。主に生徒の集合写真や学校行事の様子を撮影した写真が狙われているというから、愉快犯だけではくくれない。学校生活に恨みがあったのかもしれない。

広範囲にわたるため模倣犯がいる可能性がある。むろん、切り取りは殺人とは違う。でも、そこに怖さを感じるのは、心の闇がゆがんだ形で表に出ているように見えるからか。

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【切り取り被害】図書館で広がる学校史・記念誌切り取り被害 全国で250冊2千ページ超 目的不明、模倣も?

 図書館が所蔵する学校史や記念誌が切り取られる被害が、中部地方を中心に全国で相次いで発覚している。

 11日には群馬、山梨両県の図書館も、関東地方で初めて同様の被害を公表した。公立図書館の8割が加盟する日本図書館協会(東京)は緊急調査の実施を決定。写真掲載ページに被害が集中するなど共通点はあるものの、目的が見えないだけに、関係者らに不安が広がっている。

 一連の被害は、岐阜県図書館(岐阜市)で、毎月最終金曜日に行われている蔵書整理がきっかけで発覚した。

 4月28日に作業を行っていた職員が、ある学校の記念誌を閉じた状態で見たところ、途中のページが抜き取られているような隙間が空いているのを発見。ページをめくると数十ページが切り取られていた。これを受け所蔵する県内の小中高校の学校史、記念誌など計462冊を調査した結果、10冊から計134ページが切り取られていることが分かった。

 保管されていた郷土資料コーナーでは、1週間ほど前から本の並び順の乱れが目立っていたという。別の職員は「学校史、記念誌も後世に残すべき貴重な資料。誰が何の目的でやったのか全く見当が付かない」と戸惑った様子だった。

 岐阜県図書館での被害発覚後、同県内や近隣県の図書館も調査を実施。岐阜市立中央図書館(岐阜市)や愛知県図書館(名古屋市)などで次々と被害が見つかり、11日現在で被害が確認された学校史、記念誌は250冊以上、ページ数は2千ページ以上に達した。当初は中部地方が中心だったが、秋田、群馬、静岡、香川などでも被害が確認された。

 切り取られた部分は、集合写真や学校生活の様子など写真をメインにしたページが比較的多く、刃物で切り取ったり、手で破ったりしたような形跡があるという。各図書館では、閲覧に申請が必要な場所に学校史や記念誌を移したり、警察に被害届を出したりするといった対応を行っている。

 切り取り行為の目的について、筑波大の原田隆之教授(犯罪心理学)は「同一人物が複数カ所で切り取ったとすれば、自身の学校生活や学校教育に対するネガティブな感情に基づいた暗い攻撃性の表れではないか」と分析する一方、「被害地域に広がりがあるため、ネットなどを介してつながった複数の人物によるいたずらや模倣犯も考えられる」と話している。

記述式問題

河北春秋 5/19

フランスの大学入試問題。「夜更けのセーヌ川の岸を通りかかった君は、娼婦(しょうふ)が川へ飛び込もうとするところに出会う。君は言葉だけで彼女の自殺を止められるか」。井上ひさしさんが随筆で紹介している。

難解である。変なことを言って身投げでもされたら…。実は満点をもらった受験生がいた。答えは「『わたしと結婚してください』と説得するしかありません」。後に小説『王道』『人間の条件』を著すアンドレ・マルローだったという。

大学入試センター試験が今の中3から対象に衣替えとなる。難しい女心を読めとまで求めはしないだろうが、実施案は国語と数学に記述式問題を加えた。四角いマスを塗りつぶすマークシート式で知識量を測り、文章で思考力や表現力をみるらしい。

この実施案、遠藤周作さんが聞いたらさぞ喜んだろう。かつて自作小説が入試に出題され、主人公の心理状態を考える問題に挑戦。悪戦苦闘して四つの選択肢全てに○を付けたら正解は一つだった。「抗議する」と怒った様子が『狐狸庵(こりあん)閑談』に書かれている。

でも、待てよ。国語で3問ほど出題される記述式に答えるのは最大120字。「こんな程度で表現力を問われてもな~」と作家の皆さんは少々戸惑うかもしれない。そこはマルローに倣ってビシッと。

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忖度(そんたく)問題

北斗星 5/19

ある国会議員の子女は教員志望だったが、地元の採用試験を受けず、縁もゆかりもない他県の採用試験を受けた。たとえ実力で地元の試験に合格しても「どうせ親の威光でしょ」と言われるだろうと思ったからだ。

独立心の強い見上げた娘さんである。父親の議員も娘の思いを尊重した。彼女は文字通り実力で試験に合格して他県の教員となった。議員は亡くなって久しいが、生前に本人からこの話を聞き、感動したことを覚えている。

親の威光で試験結果が左右される時代があったかどうかまでは知らないが、やっかみ半分であれこれうわさする人はいる。娘を手元に置きたいというのが親心なら、無理にとどめて不愉快な思いをさせるのは気の毒だというのも親心だ。

愛媛県今治市への私大獣医学部新設計画は、森友学園に続く「忖度(そんたく)問題」第2幕の様相を見せている。大学の経営者と安倍晋三首相が親しい間柄で、国家戦略特区の対象事業として特例的に新設が認められた背後に首相の意向があったのでは、と疑われている。

首相は以前「私と付き合いがあったら国家戦略特区に指定されないということになるのか。これはおかしな話になる」と国会で答弁しているが、親しい友人となれば、双方にその気がなくても疑われるのはやむを得ない。歓迎して建設用地を無償提供した今治市にとっても迷惑な話だろう。

むしろ「私が首相であるうちはやめた方がいい」と助言するのが親心であり真の友情ではなかったか。

ウエルシュ菌

滴一滴 5/19

 前の晩に残ったカレーが翌朝にも出る。向田邦子さんが脚本を書いた往年の人気テレビドラマ「寺内貫太郎一家」にはそんな家族の食卓が描かれていた。

向田さん本人もカレーが好物で、子どものころ、前夜のカレーの残りを朝食のご飯にかけたいと親にねだったそうだ。「子どもは前の日のカレーを食べたいわけですよ」。生前の対談で語っている。

特に昭和の時代に子どもだった人には、似たような思い出があるに違いない。鍋のカレーがたくさん残ると、しばらくは食べられるのがうれしかった。一晩寝かせれば味もよくなった気がしたものだ。

作り置きしたカレーなどが食中毒の原因になるとして、厚生労働省が注意を呼び掛けている。今年3月には都内の私立幼稚園で、園児や教職員ら70人以上が嘔吐(おうと)や下痢などの症状を訴えた。園の行事で出たカレーを食べたのが原因とみられる。カレーは前日に調理し、室内に置いていた。

悪さをするのはウエルシュ菌という細菌だ。いったん加熱されると熱に強くなり、常温で放置すると急速に増殖する。再加熱しても菌が生き残る場合があるという。

カレーを保存するにはできるだけ早く冷ますことが大事らしい。面倒でも小分けし、冷蔵か冷凍する。2日目のカレーが好きだった向田さんが健在なら、現代の食卓の風景をどう描くだろうか。

C・エレガンス

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【C・エレガンス】

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【アニサキス】

南風録 5/19

 映画「007」でおなじみの英国諜報(ちょうほう)員ジェームズ・ボンドの名は実在した鳥類研究者に由来するという。「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」(新潮社)で知った。

 ボンドの生みの親であるイアン・フレミングが地味な名前にしたいと愛読書の著者名を拝借した。おしゃれでハンサムなすご腕スパイとして自分の名が世界に知れ渡るとは、当の本人は思いもよらなかったに違いない。

 人類の危機を幾度となく救ったボンドよろしく、「C・エレガンス」という耳慣れない生き物も人知れず危険と闘っている。体長1ミリ程度の線虫である。動きが優雅で美しいからと、100年ほど前にこの名を授かったと伝えられる。遺伝子研究では長く重宝されてきたらしい。

 気品ある名前からは想像しにくいが、犬並みといわれる嗅覚を備えているから侮れない。人ががんにかかっているかどうかを、尿のにおいでかぎ分ける。これを“武器”に使った検査装置の開発が進んでいて、メーカーは2019年にも量産態勢を整えるという。

 9割の確率でがん患者を見分けたとする鹿児島市の病院の報告もある。検査に伴う体への負担は少なく、費用も安上がりと聞けば、一気に身近に感じられる。

 この世は人の胃や腸にへばりついて激痛をもたらすアニサキスのような線虫ばかりではないようだ。小さなすご腕の活躍ぶりに期待したい。

忖度

小社会 5/19

 このところ頻繁に登場するようになった「忖度(そんたく)」。「他人の心中や考えなどを推しはかること」という意味のこの熟語が初めて使われたのは中国最古の詩集「詩経」とみられている。

 「巧言」という詩に「他人心あり、予(われ)之(これ)を忖度す」。ここでの心はよこしまな心を指す。他の人に邪心があれば、私はそれを推しはかる。むろん、しっかりと推察し、そうした不正な心を把握する、という意味だ。

 学校法人「森友学園」に続いて、安倍首相の友人が理事長を務める「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画を巡って大きな動きがあった。文部科学省と内閣府のやりとりを記録したとされる文書には、早期の開学に関して「官邸の最高レベルが言っていること」「総理の意向だ」。

 安倍首相はこれまでの国会答弁などで関与を強く否定している。とするなら、首相は早期開学を望んでいるようだ、と忖度した官僚が事業計画の認定などを急いだのだろうか。菅官房長官が「怪文書」とした文書の真偽を含め、事実関係の解明が不可欠となる。

 「巧言」は「躍躍(てきてき)たる毚兎(ざんと)、犬に遇(あ)いて之を獲(と)らる」と続く。すばしっこくずるがしこいウサギも、犬に出合って捕まる。よこしまな心を持つ人間はこのウサギの類いであり、やがて必ず捕らえる犬が現れる、といったことのようだ。

 この詩は、暴君を非難するために官僚が作った、との見方があることを最後に付け加えておきたい。

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ホタル飛ぶ町

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「ゲンジボタル」
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水鉄砲 5/19

 「ホタルが飛び始めている」と聞いて、早速、毎年のように観賞に出掛けている上富田町の川べりに出掛けた。

 まだ5月半ばであり、少々肌寒かったせいもあるのだろう。飛んでいるのはほんの十数匹。それぞれが闇の中で2、3秒置きに淡い光を点滅させていた。よく見ると、川辺の草むらの中でひっそりと明かりをともしているのも少なくない。

 この光景を見ながら、子どもの頃、毎晩のように竹ぼうきを手に、近くの川べりに出掛けたことを思い出す。ホタルが乱舞している場所でほうきを振り回すと、小学生でも必ず、3匹や5匹のホタルが捕れた。それを持参した瓶に移して持ち帰り、明かりを消した奥座敷においておくと、柔らかな明かりを点滅させる。

 「きれいなもんやな」と母親や妹が喜ぶ。同時に「あとで放したげや。ホタルにも尊い命があるんやから、それを勝手に縮めたらあかんで」と必ず注意された。60年以上も前の話である。

 その後郷里では、水田の除草や害虫駆除のため、盛んに農薬が使用されるようになり、それに伴ってホタルの姿も見られなくなった。最近になってようやく復活したそうだが、紀南でも同じような経過をたどったのだろうか。

 紀南にはいま、ホタルの名所がいくつもある。それぞれ土地の人たちが生息できる環境を整えてきたからだろう。人間の暮らしと環境保全。ホタルに魅せられるだけでなく、常にそのことを考えていきたい。