2017年05月14日の記事 (1/1)

教訓1

春秋 5/14

フォーク歌手加川良さんが先月亡くなった。内閣官房長官が戦前の「教育勅語」の教材使用を「否定せず」と報じられた波紋が広がる中での訃報だったことが、加川さんの曲を思い出させた

1970年に自分で作って歌った「教訓1」という曲。〈命はひとつ 人生は1回 だから命をすてないようにネ あわてるとついフラフラと 御国のためなのと言われるとネ〉

「父母に孝行を」「兄弟姉妹仲良く」などと書かれた教育勅語には、こんなことも。「万一危急の大事が起こったならば、大義に基づいて勇気をふるい、一身を捧(ささ)げて皇室国家のためにつくせ」

ベトナム戦争のころ歌い始めた「教訓1」を、加川さんはずっと歌い続けた。3年前に本紙インタビュー欄「Get」でこう話していた。「今も歌ってますよ。歌うたびに新曲だと思えるんです。今は『集団的自衛権』というタイトルで歌ってます。歌詞は何も変えてません」

変えずに歌える状況が次々に現れる。政治によってつくられていく。本紙に次のようにも話していた。「今、ヤバいなと思うのは、戦争に行ったことがない、戦争を知らない人たちが政治を動かしている。僕らの小さいころは、知ってる人がたくさんいて、行った人は皆、戦争は絶対やったらいかん、と…」

「教訓1」は言う。お国のためとかいわれたら〈青くなって しりごみなさい にげなさい かくれなさい〉




命はひとつ 人生は1回
だから命を すてないようにネ
あわてるとついフラフラと
御国のためなのと言われるとネ

青くなって しりごみなさい
にげなさい かくれなさい

御国は 俺達死んだとて
ずっと後まで残りますよネ
失礼しましたで終るだけ
命のスペアはありませんよ

青くなって しりごみなさい
にげなさい かくれなさい

命をすてて 男になれと
言われた時にはふるえましょうよネ
そうよあたしゃ女で結構
女のくさったのでかまいませんヨ

青くなって しりごみなさい
にげなさい かくれなさい

死んで神様と 言われるよりも
生きてバカだと言われましょうよネ
きれいごとならべられた時も
この命をすてないようにネ

青くなって しりごみなさい
にげなさい かくれなさい

元気だよ

中日春秋 5/14

その俳優の母上はとにかく、息子をほめるのだそうだ。「おまえは本当に役者に生まれてきたような子だよ」「おまえはなんてうまい役者だろう」「おまえは最高だよ」。「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」などの風間杜夫さんのおかあさん。

ある日、終演後の楽屋にやって来るなり、息子の名演に喜びのあまり、こう大声を出した。「仲代達矢よりよかったよ。勝ったね」。隣の楽屋には共演の仲代さんがいる。風間さんがどんなに肝を冷やしたことか。

たとえ、それが聞こえたとしても、仲代さんは怒らず、ほほ笑んだのではないかと想像する。仲代さんにも同じ「記憶」がある。

俳優座時代の若き日、イプセンの「幽霊」で大役をつかんだ。上演中、どうも客席が騒がしい。騒ぎのもとは仲代さんのおかあさん。舞台を指さして、「アレ、私の息子なんです。いい男でしょ。アレ息子!」。

いずれも『この母ありて』(木村隆さん・青蛙房)から拝借した。母の日である。どの母も子の成長、幸せに喜びを爆発させる。笑う。母とはそういう生き物である。そして子どもは母の喜びに照れくさく感じつつも、勇気づけられ、励まされ、その道を歩んでいく。母の笑いは子の道を照らす。

なにも名優にならずとも母の笑いは手に入る。カーネーションさえいらないかもしれない。電話で、魔法の言葉を唱えればいい。「元気だよ」

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